ホタテ由来
プラズマローゲンの
製造方法
Scallop derived Plasmalogen : Method
「プラズマローゲン」は、動物やある種の細菌に広く存在する天然のリン脂質の一種です。脂質は分子の種類に富み、取扱いも難しい成分です。特にプラズマローゲンは、その特性から酸化されやすく、また類似のリン脂質も多く存在することから、抽出や純度の高い精製物を得ることが難しくなります。「ホタテ由来プラズマローゲン」は、その名の通りホタテ貝から得られるプラズマローゲンです。このページでは、「ホタテ由来プラズマローゲン」がどのように生まれてくるかについてお伝えします。
1. ホタテ由来プラズマローゲンの原料
まずは、原料からみていきましょう。誰もが知っているホタテ貝(Mizuhopecten yessoensis)です。貝柱は肉厚で淡泊、ほぐれやすく風味もよく、刺身やバター焼きなどさまざまなに調理されます。また、外套膜(がいとうまく)、いわゆるヒモも生食や燻製などにして食されています。では、なぜホタテ貝をプラズマローゲン抽出の原料に選んでいるのでしょうか?そこには主に3つの理由があります。
第一により高機能なプラズマローゲンを目指したからです。さまざまな生物原料からのプラズマローゲンの抽出を検討している中で、ホタテ貝由来のプラズマローゲンは有用性が高いと推定されています。これは後にもう少し詳しく触れますが、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といったω-3系長鎖多価不飽和脂肪酸(長い炭素鎖で二重結合をたくさんもつ脂肪酸)が高含有であることと、ヒトの脳組織に多く存在するプラズマローゲンのサブタイプ(型)が多いということに由来します。
第二にホタテ貝の脂質組成がプラズマローゲンの抽出と精製に非常に有利であるということです。ホタテ貝は、中性脂質(トリアシルグリセロールなど)、いわゆる油が少なく、リン脂質の比率が高いのが特徴です。これはリン脂質を抽出・精製するのに有利です。さらにリン脂質中に含まれるプラズマローゲン(エーテルリン脂質)の割合も高く、高純度プラズマローゲンの抽出材料としては最適なのです。
第三の理由は、原料供給の安定性です。ホタテ貝は、日本国内だけでも年間30万トン近い水揚げ量をほこる水産資源です。天候の不順で多少の増減はありますが、養殖も盛んで安定的に原料を確保することができます。他の二枚貝でもプラズマローゲンを抽出できますが、大きさや供給の面でホタテ貝に勝るものはありません。
このようにホタテ貝は、機能面あるいは製造面どちらにおいても優れた特徴をもっています。なお、国産(青森県産、北海道産)ホタテの食用用途のものを原料として抽出をおこなっており、もちろんウロと呼ばれる部分は取り除いています。
2. ホタテ由来プラズマローゲンの抽出と精製
ホタテ由来プラズマローゲンの抽出方法は、3段階から成り立ちます。先ほどホタテ貝はプラズマローゲンの抽出に有利と記しましたが、とはいえプラズマローゲンのホタテ総脂質中に占める割合は、20%未満で、残りの80%以上はそれ以外の脂質成分です。そこから高純度のプラズマローゲンを得るには工夫が必要になります。そこで我々は、特殊酵素を用いることで純度の高いプラズマローゲンを含む抽出物を得る方法を採択しています。
まず、抽出の第一ステップとして、プラズマローゲンは分解しないが、他の脂質成分は分解する特殊な酵素を利用して、原料となるホタテ貝を処理します。次いで第二ステップで処理済みのホタテ貝から脂質を抽出し、粗プラズマローゲン油脂を得ます。この粗プラズマローゲン油脂をさらに精製するのが、第三ステップです。ここまでの抽出および精製工程で得られる抽出物は、ほとんどがプラズマローゲン(エーテル型リン脂質)で、わずかに二枚貝特有のセラミド類(スフィンゴ脂質)とコレステロール類を含むのみになります。
しかし、高純度化することでリン脂質特有の問題点もでてきます。このことについては、後述します。
3. ホタテ由来プラズマローゲンの特徴
原料のところでも少し触れましたが、改めてホタテ由来プラズマローゲンの特徴について、お伝えします。ホタテ由来プラズマローゲンの最大の特徴は、プラズマローゲンを構成する脂肪酸の構成が特徴的というところです。すなわち、DHAやEPAといったω-3系長鎖多価不飽和脂肪酸が高含有であることが挙げられます。プラズマローゲンには結合するアルコール類によって異なるサブタイプが存在しますが、いずれの型においても総じてDHAが多く含まれており、DHA結合型をメインとしたプラズマローゲンといえます。実は、このDHA結合型のプラズマローゲンは、他の飽和脂肪酸が結合した型と比べて、機能面でも優れていることがわかってきています。また、アルツハイマー病で最も減衰するプラズマローゲン種もこのDHA結合型ということが示されています。
第二に、結合しているアルコールの種類に少し触れましたが、この割合も生物種(あるいは臓器、部位)毎に特徴が有ります。ホタテ由来プラズマローゲンの場合、ヒトにおける脳組織に多いプラズマローゲンのサブタイプ、つまりエタノールアミンが結合した型(PE型)が多く含まれているのが特徴です。
第三に、ホタテ貝のプラズマローゲン抽出に有利な脂質構成という特徴と特殊酵素を利用する方法を採択していることで、高純度なプラズマローゲンを含む素材となっている点です。プラズマローゲンは、動物に広く分布している脂質成分です。通常の食事をしていれば(動物性の食事をとっていれば)、かならずプラズマローゲンを摂取しています。では、なぜこのホタテ由来プラズマローゲンを摂ることで、さまざまな有効性が立証されているのでしょうか?食事で摂るプラズマローゲンは、まったく抽出も精製もされていないということです。ハッキリとした理由はまだわかっていませんが、プラズマローゲンを精製して露出することに意味があるものと考えられており、ヒト臨床試験における有効性がいくつも示唆されているのも精製済のプラズマローゲンならではといえます。
4. ホタテ由来プラズマローゲンの粉末化
より扱いやすく、より安定的な素材としてプラズマローゲンを取り扱えるようにしたのが、粉末化ホタテ由来プラズマローゲンです。プラズマローゲンなどのリン脂質は、他の油と混ざっているときは油状ですが、精製して純度を高めると半固形のガム状の性質を示し、非常に取扱いのしづらい素材となってしまいます。また、ホタテ由来プラズマローゲンは、プラズマローゲンの特徴であるビニルエーテル結合に加え、DHAやEPAなどの長鎖多価不飽和脂肪酸を多く含むため、非常に酸化されやすい性質を持ちます。これらの課題をクリアしたのが、粉末化技術でした。環状オリゴ糖でプラズマローゲンをくるむことによって、酸化から守り、かつサラサラな流動性の高い、取扱いのし易い素材へと進化させることができました。ハードカプセル、錠剤、顆粒、ソフトカプセルなど幅広い剤形に対応できる素材となっています。