乳酸菌生成エキス×アスリート
持久系アスリートと
腸内細菌叢~前編~
レース後に乱れる腸内細菌叢を安定
特に競技時間が長い持久系アスリートは腸内環境が乱れやすく、競技成績に大きく影響してしまうことも。
今回、乳酸菌生成エキスによって持久系アスリートの腸内細菌叢が安定し、アスリートのコンディション維持に役立つという結果が確認されました。
その結果を前・後編にわたり、ご紹介します。
持久系アスリートの
腸内環境
コンディショニングの有効性を確認
2022年1月27日付 米国科学誌「PLOS ONE」に掲載
(URL: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0262906)
※本研究は、杉田正明教授の前職先である三重大学在籍時に行われました。
2022年1月27日付 米国科学誌「PLOS ONE」に掲載(URL: https://doi.org/10.1371/journal.pone.0262906)
※本研究は、杉田正明教授の前職先である三重大学在籍時に行われました。
試験概要
- 試験対象:同意を得た大学生長距離陸上選手 13名(男性9名/女性4名)
- 被験成分:乳酸菌生成エキス 希釈タイプ
- 用量・期間:20ml/1日 連続28日
- 調査内容:乳酸菌生成エキス飲用前の事前観察期間Aと乳酸菌生成エキス飲用期間Bの28日間(ともに公式レース実施を含む)の比較によるオープン試験
以下、乳酸菌生成エキス飲用前の事前観察期間Aを期間A、乳酸菌生成エキス飲用期間Bを期間Bとする。
②期間Aと期間Bの尿中代謝物の変化
を検証。
はじめに
腸内細菌は、栄養吸収をはじめとして、免疫反応や解毒作用などの様々な体のはたらきに深く関わっています。日頃の食生活が腸内細菌叢に影響を及ぼすのはもちろんですが、過度な運動も腸内細菌叢を変化させる原因の一つです。腸内環境の状態はアスリートの競技パフォーマンスに大きく影響することから、スポーツ界では、腸内環境をととのえることが非常に注目されています。
そこで、持久系アスリート(長距離・陸上選手)の腸内細菌叢が公式レース後に受けるダメージと、乳酸菌生成エキス飲用による腸内細菌叢への影響を日本体育大学・杉田正明教授と共同で調査・分析を行いました。ここでは、試験からわかった❶~❸の結果のうち、「❶腸内細菌叢が安定」についてご紹介します。
<調査方法>
レース前後での
腸内細菌叢の構成変化
- ●期間Aと期間Bのそれぞれで、公式レース(長距離レースや駅伝)が1回あたるように試験期間を設定しました。(図1参照)
- ●期間Aと期間Bのそれぞれの公式レース前後で便のサンプルを計4回採取し、腸内細菌叢の構成変化を分析しました。※1
選手たちの走行距離は、期間Aの1回目のレースよりも期間Bの2回目のレースの方が長く、体への負担が大きいものでした。
※1:次世代シークエンスを用いたメタゲノム解析によって分析。
※2:試験対象13名のうち、4回ともサンプルを採取できたのは8名。 - ●調査時期
- 便採取❶ 期間A 公式レース1回目前
- 便採取❷ 期間A 公式レース1回目後
- 便採取❸ 期間B 公式レース2回目前
- 便採取❹ 期間B 公式レース2回目後
<結果>
持久系アスリートの
腸内細菌叢が安定
期間Aの採取❶❷の調査で、採取❷は採取❶よりもフィルミクティス門の細菌たちが増え、バクテロイデス門の細菌たちが減っていました。公式レースによって腸内細菌叢が乱れたと考えられます。
腸内細菌の種類は、大きく分けると主に4つの細菌群から構成されています(フィルミクティス門、バクテロイデス門、アクチノバクテリア門※3、プロテオバクテリア門※4)。中でもフィルミクティス門とバクテロイデス門は、最大派閥で半数以上を占める細菌群です。フィルミクティス門の細菌たちは肉類や脂肪などのエネルギー量の多い食べ物をエサとして好み、肥満を抱える方に多く存在します。一方、バクテロイデス門の細菌たちは食物繊維をエサとし、短鎖脂肪酸という物質を作り出す細菌種が多く存在します。短鎖脂肪酸は細胞のエネルギー源となり、腸のぜん動運動をうながし、病原菌が出す毒素から腸を守るなど、腸にとって非常に重要な物質です。
これらの腸内細菌叢の大半を占める細菌群の比率がたった一度のレースで変化してしまうことは、驚きです。どうしてこのような変化が起こるのかについては、未だわかっていません。レースによる過度の運動負荷やストレスによるものかも知れませんし、あるいはその負荷に対応するための変化なのかも知れません。ただ、これだけの細菌群の比率が変化したということは、その代謝物にも大きな影響がでてくると予想されます。
※3:ビフィズス菌などに代表される細菌群
※4:大腸菌やピロリ菌などに代表される細菌群
レースの負荷がかかっても腸内細菌叢が安定したことを確認
期間Bに行った採取❸❹の調査で特に注目すべきは、バクテロイデス門の細菌たちが増え、かつフィルミクティス門が減る傾向にある点です。走行距離が長かったため、レースでの体への負荷は期間Aよりも大きかったにも関わらず、レース後の腸内細菌叢の変化は小さく、むしろ❶に採取した本来の腸内細菌叢に近づいている様子がみられました。この結果から、乳酸菌生成エキスの飲用によって、レースでの負荷がかかっても腸内細菌叢が安定するのかもしれません。
代謝障害を軽減する有望な細菌種の増加も期待
乳酸菌生成エキスの飲用によって変化のあった細菌種を検索したところ、Parabacteroides distasonis(パラバクテロイデス・ディスタソニス、PD菌)という細菌種が増えていました。
PD菌が減少すると、肥満や非アルコール性肝疾患(NAFLD)、炎症性腸疾患(IBD)、多発性硬化症と関連することが報告されていることから、PD菌は体に潜む代謝障害を軽減することができる細菌種として有望視されています。また、PD菌は抗炎症作用にも関連することから、アスリートのコンディショニング維持を目的として外から摂り入れることも提案されていますが、乳酸菌生成エキスは、体の内側からPD菌を調節する食品成分として期待されます。