第4章 腸のはたらき
大腸内の排泄の流れ
私たちの便の内容物は、70~80%が水分、残りが食べカス、腸内細菌、そして腸粘膜などから構成されています。便の形成や排泄までの作業は大腸内で行われます。小腸までに消化吸収された食べ物は、まだ水分が多くドロドロしていますが、大腸内を進むにつれて水分が吸収されて固形化されて便となります(図①~③)。このとき重要なのが「ぜん動運動」と「粘液分泌」。ぜん動運動は、「縮んでは緩み」を繰り返して便を送り出し、その際に便が大腸の細胞を傷つけずスムーズに動けるように大腸壁から粘液が出て(図④)、便をコーティングしていきます。そして最後に大腸が水分を出し、一気に外へ押し出すのです。健康な大腸は、この「ぜん動運動」と「粘液の分泌」にあるといっても過言ではありません。
だから便秘は避けたい
便には体内の不要物・有害物質も含まれています。たとえば痛風の原因物質となる尿酸です。尿酸といえば腎臓で処理され尿から排泄されるのですが、最近の研究で、実は大腸からも排出されていることがわかりました。その他、薬物や環境ホルモンなども便から排泄されています。便は体内の不要物を体外へ排泄する要でもあるのです。
つまり、便秘は、不要物のみならずこのような毒素までも体内にとどめてしまうやっかいなもの。少しずつ体をむしばんでいっている症状といっても過言ではありません。
排泄をサポートする、「短鎖脂肪酸」
健康な大腸に必須な「ぜん動運動」と「粘液の分泌」。これをコントロール・サポートしているのが、「短鎖脂肪酸」。有機酸の一種で、ぜん動運動や粘液の生産・分泌、そして腸壁細胞の保護などに働きます。その他、短鎖脂肪酸は、肥満予防や糖尿病予防、免疫機能の調節など我々にとって重要な働きもしてくれます。この短鎖脂肪酸は、食べ物にも含まれますが、ほとんどが小腸で吸収あるいは代謝されてしまいます。大腸で必要なのにです。
腸内細菌の「バランス」と「量」を増やすことがカギ
では、大腸の短鎖脂肪酸はどこからやってくるのでしょうか? 実は腸内細菌が作ってくれているのです。
大腸まで必要な短鎖脂肪酸が届かないから、一緒に生活している腸内細菌達に手伝ってもらうという実に合理的なシステムを作り上げているのです。腸内には、200種、100兆個以上の細菌がすんでいます。その中の特定の細菌が、小腸では吸収されない食物繊維を発酵させて短鎖脂肪酸を作り出します。短鎖脂肪酸にはさまざまな種類があり、役割も変わってくるため、多様な短鎖脂肪酸を多く産生することがスムーズな排泄に結びつきます。偏った食事は、その栄養素を好む細菌だけが増えて、腸内細菌のバランスが乱れる原因に。腸内細菌バランスの乱れは、短鎖脂肪酸の乱れにもつながります。
すると排便作業に支障がでて便秘になる。負の連鎖で不要物がたまりやすくなるわけです。腸内細菌のバランスと量が何よりも大事になります。そのためには、野菜、肉、魚、海草などまんべんなく食べバランスよく腸内細菌を増やすことがカギなのです。
食物繊維も使い分け
多くの種類の食物繊維を摂るのもポイントです。食物繊維は、大きくわけて「水溶性食物繊維」と「不溶性食物繊維」の二つがあります。
水溶性食物繊維は、便の水分を保持して排便のスムーズさに。不溶性食物繊維は、便のカサを増すだけでなく、不要物をキャッチすることに働きます。そして水溶性食物繊維が主に腸内細菌のエサになります。水溶性食物繊維は、リンゴや海草、こんにゃくに、不溶性食物繊維は、さつまいもやゴボウに多く含まれています。
いい便を作るには、水溶性食物繊維のみも、不溶性食物繊維のみでもダメ。食物繊維が良いからといって、闇雲に摂っても意味がありません。どちらの繊維もバランスよく摂りたいですね。
ちなみに腸内細菌のバランスが崩れたら、おならや便が臭くなります。鼻をつまみたくなる便臭は、排泄がうまくいかなくなる前兆。生活を見直すなど改善が必要です。
短鎖脂肪酸とは(その2)
【種類】ヒトの場合、酢酸、プロピオン酸、酪酸の3種が代表的な短鎖脂肪酸。
【働き】●脂肪の蓄積を減らし、代謝を活発にし肥満を防ぐ。
●糖尿病改善ホルモン「インクレチン」を増やす。
●アレルギーを抑えるT レグを増やす。
●脳内伝達物質「セロトニン」の分泌を促す。
●腸のバリア機能を高め、食中毒、炎症、食物アレルギー、動脈硬化、がんなどの病気を防ぐ。
●短鎖脂肪酸ができる過程で腸内細菌から水素が発生し、活性酸素を中和する。
●腸管の活動エネルギー源になる。
※その1は「消化」のページをご覧ください。